
※役職はインタビュー当時の内容です。
Benjamin Naoto Chiche (バンジャマン・直人・シッシュ)
2022年11月入社
パリ=サクレー大学大学院 天文学・天体物理学専攻 博士課程
今回は、画像AIリサーチャーとしてご活躍いただいているChicheさんにお話を伺いました!
早速ですが、Ristにおける現在の仕事内容を教えてください。
Chiche:私は現在、画像 AI リサーチャーとしてビジョンソリューション部の研究チームに所属しています。
新しく見出した研究系の課題に対してアイデアを提案し、実験を踏まえて解決方法を見出していく仕事です。最終的には、その解決方法をレポートや論文にまとめていきます。
そのほか、「LandingLens」の事業立ち上げにも携わっているので、「LandingLens」に基づいたデモシステムを作ったりもしています。
最近はどのような研究案件に携わっておられましたか?
Chiche:今は新しいプロジェクトに取り組み始めたところですが、その前は独自データベースの開発と研究に携わっていました。
社内で生成したCG画像を使って独自データベースを開発し、そのデータベースを使ったAIモデルの事前学習についての研究です。
従来の自然画像データを事前学習用に使おうとすると、画像の著作権やライセンスが問題になる可能性があります。また、これらの画像はプライバシーを侵害する可能性や不公平なバイアスを学習させてしまう可能性も秘めています。
この独自データベースがあれば、これらの問題が解決され、安心して AI を事前学習・利用することができます。
なるほど。画像AI学習に使う画像の権利については、今後ルールや法律が厳しくなる可能性もありますよね。
CG画像は、どのように生成したんですか?
Chiche:CG画像はコンピュータグラフィックスの技術を用い、数式に基づいて生成しています。なので、数式のパラメーターを変えると生成される画像も変化します。
本来は多様なデータセットを作るためには多数のカテゴリーの画像が必要です。
例えば、犬や猫など1000カテゴリーほどの画像が必要になりますが、数式を使えば、数式内のパラメータを変動させることによって比較的簡単に多様な画像を生成することができるんです。
※上記でChicheさんがお話されている独自データベースについての論文がCVPR 2024に採択されました。こちらからご覧いただけます!

社内でのコミュニケーションや意見交換がモチベーションにつながる
リサーチャーとして研究や開発を進められる中で、特にどんな作業に時間をかけたり、苦労されることが多いですか?
Chiche:研究案件によると思いますが、やっぱり試行錯誤する時間が一番長いです。
例えば、ある研究を進める中で「この事前学習にはこの数式を使えばいいんじゃないか?」というアイデアが出ても、その数式で作ったデータが本当に事前学習に有効か否かは実際に生成してみないとわからないです。
なので、最初に生成をテストする待ち時間が発生して、それが終わる度に事前学習を投げて、その結果をタスク上でパフォーマンス測定を行う、という流れを繰り返します。
この仮説を実証するプロセスと試行錯誤する時間が長くて、精神力も費やしますね。
確かに、強い精神力が必要な作業ですね……。
Chiche:あとは、作業の1つ1つをリピートする時間やデータ生成スピードをGPUを使って高速化する必要があるので、高速化させるためのコードを考えて書くなどのアイデア力も必要です。
なるほど。アイデアの源となる知見を収集したり、論文をインプットすることにも時間がかかると思いますが、何か工夫されていることはありますか?
Chiche:私の場合は、論文を理解する時は”量より質”と考えています。なので、幅広くたくさんの論文を読むことよりも、必要なことが書かれている論文を選んで、それをきちんと理解するところから始めています。
Chicheさんはオフィスでも長時間PCに向かって集中されている様子をお見かけしますが、改めてお話を聞くと、研究テーマに対して必要なタスクに根気強く取り組んでおられる様子が伝わってきます。
Chiche:そうですね。1人で黙々と作業することも多いです。
作業の合間にリフレッシュとかはされていますか?
Chiche:普段から社内のメンバーとのコミュニケーションは大事にしているんですが、結果的にそれがリフレッシュに繋がっているのかなと思います。
社内のメンバーとは、どんな話をされるんですか?
Chiche:趣味や仕事の話など、いろいろですよ。私と同じサッカー好きのメンバーとは、前日に行われた試合について話したり、漫画好きのメンバーとは最近のオススメ漫画を共有しあったり。(笑)
仕事関係だと、Ristには優秀でトレンドをチェックしているエンジニアの方がたくさんいるので、新しいトレンドやトピックを教えてもらうことが多いです。
ときどき誰かと話した方が、1人でずっと作業するよりも仕事にメリハリが生まれますし、いろんな人から知識を吸収することでモチベーションも上がるので、いいリフレッシュになりますね。
社内のコミュニケーションが活発な点はRistの魅力の一つだと思いますが、ChicheさんはRistのどんなところが好きですか?
Chiche:いろいろありますが、昼食支援制度(※)はRistならではの良い制度ですね。
社員同士の仲が深まる、食事が美味しい、そして経済的に助かるので。あとは社内共有の計算機サーバーを使用できて、何か問題が生じたら担当部署の方が迅速に対応してくれる点もありがたいです。
常に働きやすい環境を整えてもらっているなぁと感じます。
※昼食支援制度:オフィス出社日に社員2名以上で一緒に昼食を取った場合、昼食代を会社が負担する制度。
たしかにRistは、社員一人一人が働きやすい環境づくりを重視していますね。
福利厚生制度の一つに社内部活動もありますが、Chicheさんはフットサル部ですよね。
Chiche:はい。フットサル部の部長をしています!昨年新設されたボルダリング部にも何度か参加しました。身体を動かすことが好きなのと、一人より他の人とやった方が楽しいので、これからも継続して参加していきたいです。
フットサルはメンバーが10人揃わない時もあるので、なんとかメンバーを増やしていきたいです。(笑)

Ristに入社されてから、仕事でもクラブ活動でも活躍の幅を広げられているChicheさんですが、もともとRistのことを知った経緯を教えてください。
Chiche:Ristのことを知ったのは、フランスの大学院で博士論文を仕上げていた時です。
その当時、「博士課程が修了したら京都で働きたいな……。」と考えていて、「京都 画像 ai 求人」のキーワードで仕事を検索してみたら Rist の 求人に辿り着きました。
なぜ京都で働きたいと思ったんですか?
Chiche:私の出身は東京ですが、9歳から高校1年生までは京都で暮らしていました。
その時から京都の土地の雰囲気が好きで、故郷でもある京都でいつか働きたいな、と考えていたんです。
そうだったんですね。では、Ristの求人を見られて、そこから面接を受けようと思った決め手は何かありましたか?
Chiche:自身の経験を踏まえて、画像系リサーチャーの仕事がしたいと考えていたんですが、その希望と求人の内容がマッチしていたことが大きかったですね。
論文採択の経験や博士号の資格など、応募条件が自身のスキルセットともマッチしていました。
それに、関東に比べると京都はリサーチャーの求人数が少ないので、Ristの求人は私にとってかなり貴重でした。
これは余談なんですが、高校まで通っていたフランス系インターナショナルスクールがRistの本社近くにあるんです。
なんだか、RistとChicheさんのご縁を感じる話ですね。
Chiche:そうですよね。(笑)応募する時、人生でほぼ初めて日本語の履歴書と職務経歴書を作って、1週間程で仕上げて Rist に送って、そこから面接にこぎつけることができました。
博士課程における研究の傍ら、企業での画像AIエンジニアを経験
Ristに入社される前は、どのような分野の勉強や研究をされていたんですか?
Chiche:高校卒業後、日本からフランスへ渡り、理系全般の知識を集中して学ぶ予備プログラムというクラスに2年間通いました。その後、エンジニアスクールで3年間勉強しました。
エンジニアスクールで信号処理、情報処理、コンピュータサイエンス、プログラミングなどをひと通り勉強したので、これがまさに今の仕事に活かされていますね。
幅広い分野というだけでなく、それらを専門的に学んで極めてこられたんですね。
Chiche:特にエンジニアスクールに関してはレベルが高かったので、コンクールで比較的優秀な成績を納めないと入学できないところでした。悪くない成績をとって無事入学できたことは嬉しかったです。
エンジニアスクールを卒業した後は、フランスの「研究による職業教育の産業協定(CIFRE)」を利用して、システム開発の企業で画像系AIエンジニアとして働きながらパリ=サクレー大学院の博士課程に在籍していました。
※CIFRE:博士課程に在籍している人をフランスの企業が雇うと、企業側に補助金が入る制度
博士課程では、どんな研究をされていましたか?
Chiche:画像と動画のAIを用いた修復に関する研究をしていました。例えば、低画質の動画を高画質にする技術などが分かりやすいですね。
そのような技術を使ったシステムを自身が働いていた企業でも開発し、そのシステムによる検証結果を博士課程の研究論文に書いていました。
博士課程と企業での仕事内容がうまくマッチしていたので、それぞれの知見を活かすことができました。

コロナ禍が自分や社会を見つめ直すきっかけに
Chicheさんの経歴を伺っていると、興味がある分野の知識を着実に身につけて、社会人になる前から順調にキャリアを積んでこられたように思いますが、人生におけるターニングポイントはありましたか?
Chiche:パリで味わったコロナ禍は、大きなターニングポイントになりました。
ちょうど博士課程へ進学して企業で勤め出した頃だったのですが、その頃の私は今よりも社会人経験が浅かったので、目標も明確に定めず、何のために働いているかの自覚も薄かったんですよね。そんな時期にパリが1ヶ月半ほどロックダウンになり、その後も1年半ほど普通の生活ができませんでした。
ただ、この時期が自分を見つめ直すきっかけに繋がりました。
コロナ禍で一つの事業が継続できなくなると、それに伴って他の事業も継続できなくなる状況を目の当たりにしたことで、「これからはできるだけ何かに依存せず、自分で独立してもやっていけるようなスキルを身につけたい」と思うようになりました。
自分の技術は嘘をつかないし、技術を身につけておけば再びコロナ禍のような状況になってもやっていけると思ったんです。
なるほど。Chicheさんにとっては大変な時期であったとともに、人生の目標が定まった時期でもあったんですね。
Chiche:仕事のこと以外も、自分のターニングポイントになったと思います。
コロナ禍で家にいる時間が増えたことで、もともと好きだった音楽を聴くことがより好きになって、音楽作りにも没頭しました。
自分が本当に好きなことを発掘できたというか、知れた時期でもありましたね。
今も趣味で音楽を作り続けています。

先日Chicheさんと話した時に「このあと好きなバンドのライブに行くんです!」とテンション高めでお話されていたことを思い出しました。(笑)
自ら音楽も作られるんですね。どんな流れで制作するんですか?
Chiche:人によって全然違いますが、私の場合は、既存の楽曲のデジタルデータで使いたい部分を複数抜き取ってから、並び替えたりして音を繋げていきます。
それから、音程・スピードを変えたり、ドラムの音を打ち込んだりしながら曲全体を作り上げていきます。
めちゃくちゃ楽しそうですね!
Ristの社内にも趣味で楽曲作りをされている人が何人かいらっしゃいますが、Chicheさんが音楽制作される時のこだわりポイントはありますか。
Chiche:音楽のベースになるサンプル音源というものがあって、その音源自体に変化を加える人もいるのですが、私はそのままの音が好きなので、エフェクトなどの変化はあまり加えない派です。もちろん、今後いろんなことを試すうちに好みや編集の仕方が変わることもあるとは思います。
Chicheさんの制作された音楽、聴いてみたいです!
音楽の他にも、何か趣味はありますか?
Chiche:京都の街を散歩したり、自転車で散策することが好きです。
あまり遠くまでは行かなくても、少し自転車を走らせると魅力的な場所がいっぱいあります。

京都でおすすめの場所を教えてください。
Chiche:岡崎と銀閣寺の間のエリアが、あまり人が多くなくてひっそりとしていて好きです。
あとは、京都にはおしゃれなカフェもいっぱいあるので、そこでのんびり過ごすことも好きです。

Chicheさんの趣味についてもお伺いできたところで、今後の活動についてお聞きしたいと思います。
Ristでこれからやっていきたいことを教えてください。
Chiche:まずは、継続して研究案件で良い結果を出していきたいです。
今後、AI業界におけるRistの立ち位置を重要なものにしていきたいという想いもあるので、それに自分が貢献できる仕事をしていきたいですね。
あとは、研究論文をAI分野でトップレベルの国際学会に提出して発表するという目標も叶えたいです。

人間が持つ創造性を拡張するツールとして、AIが機能する社会になってほしい
今後、AIと社会の関わりが進む中で、期待することはありますか?
Chiche:これまで人が行ってきた反復的な作業などをAIが担うことで、人がより創造的な仕事に取り組むことができると信じています。
AI のおかげで人間が創造的なことに時間とお金を使っている。そんな社会を期待しています。
AI自体がある程度の創造性を持っている場合もありますが、AIにもできないことはあって、人間の表現力や創造力を完全に代替することは難しいと思っています。
なので、人間が持つ創造性を拡張するツールとして、AIが機能する社会になってほしいです。
AIと社会が良いかたちで共存できるように、Chicheさんのようなリサーチャーに期待される役割も大きくなっていきそうですね。
Chicheさんが考える、理想のリサーチャー像はありますか?
Chiche:難しい質問ですね……。私の考えは、知識を取り込むことに集中し、少しでも新しい知識を社会に発表して貢献できる人が理想のリサーチャーだと思います。
逆に、それ以外の損得勘定などはあまり気にしない人ですかね。
損得で考えず、世の中にどう貢献できるかを第一に考えられるリサーチャーということですね。
Chiche:そうですね。ただし、リサーチャーとひとことで言っても、研究機関などで働くリサーチャーもいれば企業で働くリサーチャーもいます。
後者の場合は、企業の考え方とバランスをとりながら行動することも重要になると思います。
例えば世界に向けて発表したい技術を自社で開発できたとしても、逆にそれをオープンにせず、企業の技術として守り抜くという選択肢もあるわけです。
なので、リサーチャー個人の想いと企業が望むことは、うまくバランスをとっていく必要があると思います。
なるほど。そうすると、気持ち的にジレンマが生まれないですか?
Chiche:もちろん難しい部分はありますが、私の場合はRistという企業にいるからこそ研究できたことや、社内のメンバーから得た新しい知見もたくさんあります。
大切なことはバランスをとることだと思っているので、企業の技術や知見を守るという姿勢を持ちながらも、世の中に役立つ知識の発信には常に積極的でありたいですね。
どのようなシチュエーションであれ、新しい知識を追求し続けて世の中の役に立つことを目的とする。それがリサーチャーのあるべき姿だと私は思います。
今回は、Chicheさんにお話を伺いました!
人生のターニングポイントを経て、「自分の技術は嘘をつかない」という想いのもと、技術やリサーチャーとしての実績を積み上げてこられたChicheさん。
これからも仕事でのご活躍に期待しつつ、スポーツや音楽など多彩な趣味も楽しみつつ、充実した日々を送ってください。